【本草図譜】


日本では奈良時代から中国の本草書を薬の資料として利用した。李時珍の著した本草綱目は1596年に南京で出版され、数年で日本に初版が輸入された。当時は中国の薬物を輸入するのが困難で費用もかかるため、日本の本草学者は国内の薬草と共通のものを探した。同種と思われる日本の植物に漢名をあてたため、誤りもあったが、江戸中期には日本特有のものや中国にあって日本にないものが明らかになってきた。養生訓で有名な貝原益軒はそれを「大和本草」(1709年)としてまとめた。写真がなかった時代なので、鑑別のため絵に頼らざるを得なかった。現在ではボタニカル・アートと言われ芸術の一分野を占めているが、古くから博物図譜として写真の代役を努めてきた。しかし、美しさは写真に劣らず、細部に至る描写は観察眼と技巧が不可欠で、写真と比すべくもない迫力が伝わってくる。

國譯・本草綱目を購入したとき、付録として19枚の本草図譜をいただいた。額に入れ長く店舗に飾っていたため退色したものが多く、ここでは比較的鮮やかなもの5種をあげている。

..................................................................................

附 子】

附子・漢種と書かれているが、中国から取り寄せ日本で栽培されたものである。ドクゼリ、ドクウツギとともに日本三大有毒植物と言われている。キンポウゲ科トリカブト属で日本に30種あり、毒成分のアコニチンが全草に含まれ特に根の部分に多い。葉の質感がヨモギに似た種類があり、誤って食べ中毒する事件が報告される。重篤なばあいは嘔吐・呼吸困難、臓器不全などから死に至ることもある。漢方では強心作用、鎮痛作用、温熱作用があるため、根塊を弱毒処理して用いる。根塊の子根を附子、母根を烏頭、子根の付かない根塊を天雄と言う。

..................................................................................

【金 柑】

中国揚子江中流地域が原産とされる。ミカン科キンカン属の常緑低木で実を食用や民間薬として利用する。咳や喉の痛みに南天、干し柿、黒砂糖とともに煎じた液を服用する。柑橘類なので皮にヘスペリジンが多く含まれる。図譜に説明があるように砂糖で煮た金柑の甘露煮は有名だ。

..................................................................................

【白 及】

ラン科シラン属の宿根草、シラン(紫蘭)の塊根を白及と言う。漢方では胃潰瘍や肺の出血に用いる。また粉末は外用で創傷の止血に優れる。意外なところで、陶芸家からの問い合わせや注文があり、聞くところによれば白及糊として釉薬など固定するため利用するという。

..................................................................................

【南 天】

中国原産、メギ科の常緑低木で「難を転ずる」との語呂から縁起をかついで鬼門や裏鬼門に植えられる。民間薬として葉と実を利用する。葉には毒性を持つシアン化合物が含まれるが、微量であるため害はなく防腐効果があるので生魚や弁当に添える。葉より実が繁用され健胃、鎮咳、解熱に金柑と一緒に煎じて服用する。白南天が好まれるが赤でも一向に構わない。

..................................................................................

【ニクズク】

東インド諸島・モルッカ諸島原産、ニクズク科の常緑高木でナツメグとも呼ばれる。樹高は10〜20mもあり、実が成熟すると果皮が割れ、赤い網目状の仮種皮に包まれた黒褐色の殻が見られる。仮種皮がメースで、仮種皮をはがして殻を割った中にある種子がナツメグである。独特の甘い芳香があり、スパイスとしてハンバーグやミートローフなどの挽き肉料理や魚料理の臭み消し、クッキーやケーキなどの焼き菓子に用いる。漢方では健胃、整腸や虚寒の下痢に使われる。

 

 

 

INDEX