月の照らす夜道を、僕は歩いた。
でもどこへ行けば、あかちゃんが泣きやむ方法が見つかるんだろう。
なんだか心細くなって、僕は「みゅう」って鳴いた。
「ねぇ、お月さま、どうしたらあかちゃんは泣きやむの?どうしたら、笑ってくれるの?」
その時、僕の後ろで声がした。
「あかちゃんなんか泣きやむもんか。」
「誰?」
電信柱の下に汚い野良猫が一匹、うずくまってた。
「泣きやまないよ。俺なんかあかちゃんが泣くからって、捨てられちゃったのさ。俺の泣き声がうるさくって
あかちゃんが寝ないってさ。」
野良猫は泥で汚れた前足を舐めながら言った。
「お前も捨てられちゃうよ、人間なんてあかちゃんの方が大切に決まってるんだから。」
「健太は違う!健太は僕を捨てたりしないよっ。」
「そうかな?」
野良猫は小さな牙を見せてにやりと笑った。
「人間なんて気まぐれなもんだよ、俺だってあかちゃんが来るまではすごく可愛がって
くれたんだ。どんなに夜遅く帰ってきても、僕と遊んでくれたしね。ところがあかちゃんが
来たとたん・・・・」
野良猫が全部言い終わらないうちに、僕はそこから走り出した。
後ろから野良猫の、あざ笑うような、哀れむような「「みゃお」って声が聞こえたけど
僕は振り向きもしないで走った。
「健太は違う!健太は違う!」
足がつっぱるくらい走って走って、僕は野良猫の言葉を忘れようと全速力で走った、
その時、僕の目の前がかっと光った。それからすごい大きな音。
僕の体はなにか大きなものに突き飛ばされて、空中を飛んだ。

冷たくて、あったかくて、重くて、軽くて・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ここはどこ?
「みぃ」って鳴いてみたけど、声はすぐにあたりに吸い込まれてしまって響かない。
目をあけてあたりを見ようとしたけど、真っ暗でなにも見えない。体もぴくとも動かない。
僕はどうしちゃったんだろう。
「きみは車にひかれたんだよ。」
暗闇の中から声がした。
「だれなの?」
「神さまからおつかいを頼まれてるんだ。」
「どんな?」
「さみしい生き物の魂をひとつ、神様のところに連れてくるようにってね。」
「それって、僕のことじゃないよね?」
「うん・・・・それはどうかな・・・・」
「僕はさみしくないよ、可愛がってもらってるし、それにまだ神様のとこになんか行ってる場合じゃないんだ。
健太のあかちゃんを泣きやませる方法を探さなくちゃならないんだ。」
「あかちゃんを泣きやませる方法?」
「そうだよ、あかちゃんが泣きやんでにこにこ笑ったら、健太もまゆみさんもきっと前みたいに
笑うよ。僕は健太の笑ってる顔が見たいんだ。」
「さみしくはないの?あかちゃんが笑ったら、健太も笑うけど、健太にとっての一番はもうきみじゃ
ないんだよ?」
「いいよ、それでもいいよ。健太が遊んでくれなくなっても、まゆみさんが僕のご飯何回忘れても
さみしくないよ。みんなが笑ってくれたら、それでいいんだ。」
「わかった。きみはさみしい生き物じゃなかったね。連れていくのはやめにしよう。」」
それまで動かなかった体が、少しだけ動いた。
「あなたはだれなの?」
「神様のおつかいだって、言ったろう?」
「じゃ、教えて。あかちゃんを笑わせる方法。神様のおつかいなら知ってるでしょ?」
「まだ目の見えないあかちゃんが笑うのを、なんて言うか知ってる?」
「しらない。」
「天使のほほえみって言うんだ。目の見えない赤ちゃんには天使の姿が見えるんだよ。
天使が見えたときに、あかちゃんって笑うんだ。」
「じゃ、お願い、健太のあかちゃんを泣きやませて。笑わせて。お願いだから。」
そのとたん、僕の意識はなくなった。