
| 「それでね、来週の土曜にお祝いをするんですって。あなたももちろん出席するわよね。」 「ん?なんだっけ?なんのお祝い?」 「やだ・・・・聞いてなかったの?」 「あ、ごめん。ニュース見てた」 ユマはちょっと口をとがらせて、肩をすくめた。 「ゴドーのキャプテン就任のパーティーよ。ライラから電話が来たの。彼女、自分の夫が キャプテンになったのがよっぽど嬉しいのね。この前まではあたしと同じで『飛行士の妻なんて なるもんじゃない。いくつ命があっても足りない』って愚痴こぼしてたのに。・・・・・・・ ね・・・・・?聞いてる?カイト、ねぇ!」 「ユマ。パーティーに行かなくちゃだめかな。」 「どういうこと?行きたくないの?」 「あんまり気が乗らない。君とエリスとふたりで行ってくれないか?俺から直接やつにお祝いのメールでも 送っておくから。」 「どうして?ゴドーとは学生の頃からの親友じゃないの。」 「ごめん、君からも謝っておいてくれ。」 「だめよ・・・・・だめよ、だめよ!だめよ!!」 ユマの両手がテーブルを激しく殴打する。ずっと押しとどめていた感情が、小さな針穴から いっきにあふれ出る。 「わかってるわっ、あなたは悔しいのよ。ゴドーがねたましいのよ!」 泣きながらカイトの背中を何度も揺さぶる。 「ああ、そうだよ。俺はやつがうらやましい。」 ユマにゆさぶられるがまま、カイトはつぶやいた。 「俺が子供の頃から願っていた夢を、かなえようとしているゴドーが、ねたましいよ。どんな顔して やつのパーティーに出ろっていうんだ?」 「それならなおさら、出なくちゃだめよ、カイト。あなたこのままじゃ駄目になる・・・・」 ユマはカイトの頭を母親のようにかき抱いた。 「地上に降りてから、あなたは変わったわ。最初はそれもしかたないと思った。でも時間がきっと あなたを癒してくれると信じていたの。そしてわたしもエリスも、あなたの力になれると思ってた。 でもあなたは最近、ますます心を私たちに見せてくれなくなった。カイト・・・・・私たち、夫婦でしょ? あなたの心に抱えている苦しみを、私に話してくれないの?私にはあなたを救えないの?」 「ユマ・・・・・・」 カイトの手が優しく首に巻き付いたユマの白い手をほどいた。 「苦しみなんてなにもない、ほんとになにもないんだ・・・」 「じゃあ、あなたの心を深く覆っているものはなに?」 「ただ空しいだけだよ。」 「空しい?」 「毎日が淡々と流れていく。朝 目覚めて、職場に出かけて、一日中仕事して、終わって・・・・ みんなそうやって、いつものようにいつものコマを送って過ごしてる。そして、ある日気が付いたら 一生の大半を終えているんだ。空しいと思わない?」 「わたしとエリスが側にいても?それでも空しいっていうの?」 「そうじゃないよ・・・・・・それとこれとは・・・・」 「あなたは飛べなくなった自分が悔しいのよ。私たちのせいで地上に降りたって思ってるのよ。」 「そうじゃない・・・・実際俺は怪我で・・・」 「わからない、私にはあなたの心が見えない。1日も早く立ち直ってほしくて、精一杯努力 してるつもりなのに、あなたは逆にどんどん閉じこもって行く。あなたは目をあけていても 私たちを見てない。いつも見てるのは いつも見てるのは宇宙よ。あなたには宇宙しか見えて ないのよ・・・・・・」 「違う、違うよ。ユマ ちゃんと君たちを・・・・・」 ちゃんと君たちを見ている といいかけて、カイトは戸惑った。 本当にユマとエリスを見ていたかどうか、と問われたら、見ていたと言い切れる自信なんてない。 (俺はなにを見てたんだ・・・・・いままで。) つと、わき起こる胸苦しさを隠すために、彼は泣き崩れる妻の背中を優しく抱いた。 |
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