6月3日  19時33分   送信者 紫苑
「今日も会社休みました。つわりのせいか、朝からずっと気持ちが悪くて、とても仕事なんてできそうにない。
でも愛するあなたのあかちゃんが産めると思ったら、がんばらなくちゃね。
あなたは今頃なにしているのかな?
もうすぐお腹も大きくなってくるけど、体型が変わる前に会いたいの。
明日、会えるかな?」


受信拒否にしたはずなのに、紫苑からのメールがまた届くようになっていた。
いくら受信拒否にしても、また新しいアドレスを取得して気の遠くなるような数のメールを送り続けてくる。


6月3日  23時19分   送信者  紫苑
「気分が悪い・・・・・なにも食べられない・・・・このまま体が腐っていくようだ。
けい、このままあたしを見捨てるの?ねぇ、どうして会ってくれないの?」


6月3日  23時22分   送信者  紫苑
「明日 会って。明日きっと会って。会ってくれないならあたしが会いに行くわ。会社に行くわよ。
メールの返事をちょうだい。」

6月3日  23時35分   送信者  紫苑
「このままあたしから逃げられると思ってるの?明日会って。明日、抱いて。会社に行くわ。
会社で抱いて。」

6月3日  23時50分   送信者  紫苑
「ねぇ、とても気分が悪いの。助けて・・・助けに来て、お願い。愛してるの、愛してるの、お願い・・・」

6月4日   0時15分   送信者  紫苑
「明日  会って」


日曜の午後だった。
久しぶりになにも予定が無いおだやかな休日。
ここ2、3日紫苑からのメールも電話もぱったりと途絶えて、俺はひさしぶりに落ち着いた時間を過ごしていた。
このままあきらめてくれたらいい。
彼女も、こんなふうに俺につきまとっていたってどうにもならないことくらいわかるだろう。
だいたい、俺の子供だなんていう証拠なんてないのだ。
出会い系の掲示板で知り合った男と女が、本当に愛し合うなんてことあるはずがないじゃないか。
彼女もそのことに気づいたのだろう、そうに違いない、そうであってくれればいい。
「あなたぁ、宅配便よ。」
玄関先で妻が俺を呼んだ。
「俺にか?」「そう、あなた宛て。」
「誰から?」
「わかんない、書いてないの。」
妻は業者から受け取ったばかりの、てのひらにのるくらいの小さな箱を俺に手渡した。
「軽いな、なんだろう」
包装もしていない段ボールの小箱。ガムテープで梱包してある。
開けると中から真っ白いタオルが出てきた。タオルを開くと中からビニール袋に包まれたなにかが・・・・
「なんだ、これは・・・・・・・」
「ああ!こ、これ・・・・これは!」
妻の絶叫が響いた。

それは真っ赤な血糊の中にうずまった、胎児だった。
少なくとも俺にはそう見えた。

俺は血のにじみはじめたタオルを放り出し、その場で嘔吐した。
嘔吐し続けた。
それまでのすべての、彼女に関するさまざまな記憶を体内から吐きだすように。
「あなた!これ、なに?どういうことなの?いったい誰が、誰がこんなことを・・・・・」
妻の叫びは虚空に響いてすぐに吸い込まれていった。