結局、俺はあらいざらい妻に告白した。
紫苑とのこと、すべて。
妻はあれ以来俺とまともに口を聞いてくれなくなった。妻の愛と、それまで培ってきた信頼を俺は失った。
警察にも届けようとしたが、妻に止められた。
息子の将来に触るから公にしないでくれというのがその理由だ。
俺は精神的にバランスを崩して、半月ばかり精神科に入院した。退院した今でも、夜は睡眠導入剤無しでは
眠れない。電話や携帯の音には異常なくらいの恐怖心を感じる。

紫苑はあれ以来、まったく俺に対してアクセスしてくることは無くなった。
強制終了したのは俺じゃなくて、紫苑のほうだったんだと、やっと今頃になって気がついた。
少なくとも俺は平凡だがおだやかで幸せだった家庭と、バランスのとれた心を失った。
紫苑が失ったもの・・・・・・そんなものはあったのかどうか。
今となってはわからない。
言えるのは、紫苑が俺の前から消えても、俺の魂はいまだにあの出口の無い悪夢の中を、
むやみやたらとさまよい続けているのだということ。
おそらくこの先一生・・・・紫苑の作りだしたあの闇の中を。



なにげなくパソコンを立ち上げネットをつないで、掲示板にアクセスする。
おびただしい数の書き込みがあらわる。
欲望とちょっとした好奇心と、下心を こじゃれた包装紙でラッピングして
「恋」とか「愛」とか「心」とか、見栄えのいい言葉で飾りたて。
男の本能と女の本能がさぐりあう世界。
ひとりの男がその膨大な書き込みの中からひとつに目に留めた。

『紫苑です。都内に住む27歳、OLやってます。独身です。本音で話せるメールフレンドが欲しくて、
 思い切って登録しました。
 友達にも言えない悩み事を話したり、心がほっとするメール交換ができたらいいな』

「27の独身か・・・・悪くないな。」

『はじめまして、横浜に住む既婚の38才、塾の講師をやっています。もしよかったら
メールでドキドキする話、しませんか?』

そして男はメール送信ボタンをクリックした。


おわり


あとがき