くぅ と、低くこもったような声で紫苑が果てる。
眠たそうな目のあたりをうっすらとピンク色に染めて、汗ばんだ両腕はさらにきつく俺の背中にからみつく。
女が果てる瞬間はいつ見てもいい。
どんな見栄えの悪い女でも、その瞬間は天女にも見える。
そして女を天女に変えているのは、まぎれもなく自分だという満足感。これはなにものにもかえがたい。
まだまだ俺にだって女に快楽を与えることができるじゃないか。
紫苑のたっぷりとした胸を右手でもみしだきながらながら、耳元で囁いてみる。それは本当にただの思いつきでしかなかった。
深い意味はない。「ごちそうさま」を言うのと同じような感覚で言った言葉だった。
「愛してるよ」
その瞬間 紫苑ははっと眠たげな目を見開いて、「ああ!」と両手で顔をおさえた。
「どうしたの?」
「ううん、うれしいの。けい あたしも愛してる!」
ほんの挨拶かわりの言葉でも、口に出すとこんなにも甘美な響きを持つものなんだと、俺はあらためて感心した。
愛してる  愛してる  愛してる
密室での情事を燃え上がらせるのに、これ以上効果的な言葉はあるだろうか。
しかもつい1時間前に出会った男と女を、急速に親密にさせるには、「愛してる」という台詞しか考えられない。
「愛しているわ、愛してるわ、愛してるわ・・・・」
半ば狂ったように紫苑は繰り返し、再び俺の首にしがみついてきた。
「ねぇ・・・今度はあなたが・・・」
かすれる声でそうつぶやく。
「あなたが・・・・・イって・・・」
か細い声は、俺の本能の部分を刺激する。それまで彼女を満たすためだけに使っていたエネルギーは、
今度は自分の欲望を放出させるために再度燃えたぎりはじめる。
紫苑の体をベッドに押しつけ、白い両足を抱え込んだ。
「愛してるって、言って。お願い もっと言って。」
紫苑がつぶやく。
「愛してるよ・・・愛してる 愛してる」
呪文のように繰り返しながら、自分の熱く煮えたぎった体を 紫苑の体に埋め込んだ。
愛してると言うたびに、紫苑の体が熱く反応していくのがわかった。
こんなに刺激的なのは久しぶりだ。もうとっくに理性なんて無くなっている。
俺は今が平日の午後で、仕事中で、これからまた会社に戻らなきゃならなくて、しかもこの女は
今さっき初めて出会った女で、お互い氏素性もあきらかにしていない間柄だということも
まったく忘れてしまっていた。

これはなんだ・・・・?この おかしくなりそうなくらいに強烈な感覚は。
限りなく淫猥で、下卑ていて、滅裂な この感覚。
昔 子供の頃 捕まえてきたカエルの尻に藁で息を吹き込んで遊んだ。
パンパンにふくれたカエル。あと少し息を吹き込んだら破裂するだろう。あの瞬間の残酷な感情。
殺人とか窃盗とか、大それた犯罪には比べものにならない悪戯だけど、最低なことをしている自分が
心地よい。あの陶酔感にも似た・・・・
仕事中 淫靡なことをするために存在する密室で、初対面の女とSEXする。
現実では真面目な男 真面目な父親 真面目な夫 真面目なサラリーマン。
それが今は一匹のけだものとなって、本能の赴くままに動いている。
けだものになることがこんなに快感だったとは。
こんな刺激を求めていた。あとくされない刺激。その場限りの刺激。

「イって・・・・イっていいよ・・・・」
また低く紫苑がささやく。
「ああ・・・・だめだ、ほんとにイッてしまう。」
もうすぐ クライマックスはまもなくだ。欲望を放出する直前、脳に残ったほんのわずかの理性が
女の体内への放出を避ける体勢を取ろうとした。
その瞬間、紫苑の両足がものすごい力で俺の下半身を締め付けた。
それはあたかも 食らいついた獲物が逃げ出そうとするのをはばむかのように、両足がしなやかに
しかしあがらうすべも無いほど強靱な力で、俺の腰あたりをとらえて離さない。
「だ・・・だめだよ・・・中で終わってしまう・・・」
それでも彼女の両足はぎりぎりと俺の腰をしめつけて離さない。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・ううっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
もうなすすべもなく、俺は紫苑の体内で果てた。

事が済んだ後は、ひどい虚脱感以外なにも残っていなかった。
どうしようもない睡魔に襲われ、眠ってしまっていたらしい。紫苑の声で目が覚めた。
紫苑は鼻にかかったような甘えた声で俺の名を呼びながら、汗ばんだ乳房を俺の背中に押しつけてきた。
「おっと・・・・眠ってたか。」
「10分くらいよ。」
「いま何時?」
「2時」
「会社に戻らないと・・・・・」
「いや」
そう言いながら、紫苑は俺の下半身に手を伸ばした。
「昼飯の後に外回りしてくるって会社を出てきたんだ、そろそろ戻らないと。君だって昼休みを抜けてきたんだろう?」
「有給とってきたのよ。」
萎れたはずの半身が、紫苑の巧みな刺激で再びみなぎってくるのがわかった。しかしもう事におよぶ気力がない。
なによりももう会社に戻らなきゃならない時間だった
「もっとよ」
紫苑は俺の体の上に跨がり、無理矢理勃起させられた部分に深く自分の体を沈めた。
「お、おいおい・・・・駄目だ。」
「どうして」
「もう駄目だよ、無理だ」
「どうして どうして?」
「だってさっき・・・」
「どうして!?」
紫苑は狂ったように髪を振り乱して、体をゆさぶる。
真っ白い大きな乳房が生き物のように揺れ、その顔には勝ち誇ったような笑みが浮かんでいた。
そしていつしか俺も、自分の意志とはかかわりなく、再び快楽の波に埋没していき、彼女もまた
ほとんど絶叫に近い歓喜の声をあげ続けていた。