粘 土
粘土は、簡単に云えば、岩石の風化物です。
その元となる岩石の種類、風化分解の仕方によって、
粘土の性質が変わります。
粘土も様々で、粒度、粘度、耐火度、鉄分の含有量、砂分などが
製作の要になります。
それらを感覚的には『土味』と表現します。
備前焼は、釉薬を使わない為、その焼肌が重要になってきます。
その焼肌を決定的にするのが、原料となる粘土です。
古来より『一土、二焼、三細工』などと云われてきたのは、
その為です。
焼物屋が、一般に『良い土』という粘土は、『土味』の良さと、
自分の思う焼成・製作に耐えるオールマイティー性を兼ねた
粘土の事を指します。
その意味において、単独で使用できる『良い土』は、
近年少なくなりましたが、現在は、備前で採掘される粘土同士の
ブレンドによって、解決を図っています。
原 土
■ ヒヨセ・田土 ■
備前においては、粘土は『ヒヨセ』『田土』と呼ばれ、
伊部を中心とした田畑の地下1〜5mから採掘されますが、
30〜45cm程の薄い層で、砂礫層に挟まれサンドイッチ状になっています。暗褐色や灰色、黒で有機物を含む木節系粘土です。
粘土層 手掘りされる粘土
■ その成り立ち方 ■
『ヒヨセ』は伊部、香登地区の北に位置する熊山山系
を構成する火山岩の流紋岩(石英粗面岩)が
風化、崩壊し、その場で粘土(一次粘土)となり、
洪積世(更新世170万年前)から、沖積世(完新世1万年前)に、
雨水に洗われて流出し、低地に溜まった粘土(二次粘土)です。
流出堆積時に、様々な有機物片、砂利、砂分を一緒に巻き込み、
その原土の特徴が出来上がります。
■ 粘土にみられる違い ■
ヒヨセ粘土は熊山山系の流紋岩類が風化沈積して出来た
二次粘土ですが、採掘される場所によって耐火度、粒度、鉄分量
など様々です。
◆耐火度
香登の一部から磯上にかけて、浦伊部の一部、医王山の北側……
など、耐火度の低い原土が採掘されるところがあります。 
これらの原因は、次の様に考えられます。
@母岩の違い
熊山山系周辺の地質は、古生界泥質岩類層を基盤に
中生界火山性岩類で出来ています。
  
先に古生代に生成された泥質岩類があり、
後に中生代白亜紀の火山活動によって生成された流紋岩、
石英安山岩類(中生界火山性岩類)がかぶさっている状態
です。
その為、火山岩の流紋岩類が風化沈積して出来た二次粘土に
泥質岩の堆積岩を母岩とした粘土が混入し、耐火度を下げると
考えられています。
流出堆積時や母岩に酸化アルミニウム、チタンなどを多く含み、
鉄分が少ない粘土は耐火度が高くなります。

A流出堆積先の違い
場所が海中であった場合には、海水に含まれているアルカリ塩類
(Na、Mgなど)による影響が考えられます。
粘土中のアルカリ塩類が耐火度を下げ、
又、焼成中には、ブク(火ぶくれ)が出やすくなります。
採掘された原土に貝殻の細片が見られる物もあります。
◆粒度
火山性の岩石は、マグマの冷え方によって、粒子のサイズが
異なってきます。
粗い組成の花崗岩を母岩として風化分解した一次粘土が
蛙目粘土です。 
粘土中にキラキラと光る粒が、蛙の目の様に見えるので、
その名があります。
信楽などの『石はぜ』は、含まれる長石粒、石英粒が
未風化のまま残っている為あらわれます。
美濃などの『もぐさ土』も、蛙目粘土の一種です。
これらの質感の違いは、
母岩の違い、風化具合、流出堆積条件の違いで決まります。
備前では、田畑でなく山際で、この様な一次粘土に近い土が
稀に採掘されます。
『ヒヨセ』『田土』に対して、『山土』と呼ばれます。
荒土として使用したり、耐火度を上げる為に使用します。
◆鉄分
焼き物は、原料中の金属が色に大きく作用します。
備前焼は、おもに粘土中の鉄分が関係します。
その鉄分を、還元、又は酸化させる事によって、
地色が決まります。
その為に、窯の構造、窯焚きが重要となります。
窖窯においては、酸化焼成に適した窯焚き方法があり、
登窯においては、還元焼成に適した窯焚き方法があります。
緋襷(ひだすき)では、鉄分含有量の少ない土を使用し、
青備前、紫蘇色などでは、鉄分含有量の多い土を使用します。
粘土を精製する段階で『高師小僧』が見つかる事もあります。

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備前焼 渡邊琢磨