衛星軌道上にて


  幼い日 畳の部屋で

  まだ白黒モノクロだったテレビを見ていた時

  アポロ宇宙船が誤って

  僕の左眼に軟着陸した



  以来僕は本能的に

  過剰な突端恐怖と

  フロイト的失明恐怖としての

  去勢恐怖に苛まれている



  大地に捕えられている

  このままでは

  強き母性の重力に

  押潰されてしまうだろう



  裏返しのエディプス夢

  慈愛と破壊の二面を有する

  女神像からの逃避行

  地母神ガイアの胎内からの脱出



  心は絶えず希求する

  引力からの離脱を

  地球圏からの解放を

  あの時の宇宙船ロケットのように



  僕は月を求める

  月の雫 冷たい霊液ソーマ

  知の象徴である水銀の月

  永遠の知恵と理性を求め続ける



  だが 僕は知っている

  あの輝く月さえも

  惑星の引力からは

  逃れ得ぬことを



  こうして未だに僕は

  左のレンズが厚い眼鏡を通し

  あらゆる知識を読み漁っている

  重力からの解脱のために



  ああ 今夜も未分化な

  盲目の 胎児の夢を見た

  脱出速度には まだ

  遠い


 二、三歳の頃かな。アポロ宇宙船を模したバネ仕掛けの玩具がありましてね。利き眼である左眼を負傷したことがある。父に連れられて行った眼科では大したことないと言われたんですが、たぶんあれから角膜が歪んでるんだと思う。左だけ極度の乱視です。


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