隠蔽


  ちりちりと音を立てて

  石灰質の蔓草が

  淡い月明かりの下で

  絡まり合って伸びる

  微速度撮影のように

  見る間に丈を伸ばし

  数千の細い蔓が

  白いアラベスクを織る

  発条ぜんまい仕掛けの夜



  部屋に入ると 何もなかった

  部屋そのものが無かった

  果てしない真闇が広がっていた

  目の前にくちゃくちゃした

  ガムの噛み滓のようなものが

  浮かんでいる

  胎児



  くちゃくちゃの肉塊は縮んで

  部屋の中心へと落ちて行く

  胎児の姿が消えると

  闇全体が朧ろに

  新たな肉塊を描き出す

  ───縮み始める



  部屋は

  胎児だった

  他には何もなかった

  見ている自分さえも



  月の光を一杯に吸って

  白い蔓草が伸びる

  家の周りを囲んで

  何も漏れ出さぬよう

  閉じて行く

  ちりちり

  ちりちり…


 いつか夢に見た風景。ここでも発条仕掛け、出てますね。
 月光を受けて伸びる石灰質の蔓草、というのは忘れ難いモティーフなのです。

 この時、批評欄で『漢字とひらがなの使い分けに注意を。作品が古く感じられます』などと書かれてしまった。じつはここまでの作品全部、掲載時にはかなり漢字の率が多かった訳です。古く見えるのは構わないんだけど選考者の受ける印象を考えて、これ以降は漢字を減らしました。
 今となってはワープロやパソコンの普及で無闇やたらに変換するヤツも多いことだし、古めかした文面が個性と言えなくなって来たってのもあるかな。


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