現世身うつせみの唄


  今日 本屋で見かけた髪の長い

  交差点ですれ違った色白の少年も

  刻一刻と 崩れて行く



  上辺の健康やら幸福やら

  時は無表情に過ぎ行き



  触れ合った肌と肌のその下

  髪と 爪と 骨と 歯と

  血と 肉と 目玉と臓物と

  溶けて 崩れて

  次第に形を失って行く



  今日も母は足腰の痛みを訴え

  リウマチが関節を 肉を食む

  体の動きを奪い続ける



  肝硬変で逝った父は

  崩れ 崩れた肢体で

  ぼろ布のようになりながら

  それでも生きて 僕の夢枕に立つ



  崩れ 崩れて

  蕩け 流れて

  全ては空ろな塵にして

  儚い肉体 夢幻の一生

  しかし だから

  散り行く花の美しさ

  死を孕む生の愛しさ切なさ



  さあ 今こそ君を愛そう

  君の髪を 爪を 骨を 皮を

  歯と目玉を 血と肉と臓物を

  君の全てを愛し尽くそう

  せめて短い人生のこの一時ひととき

  二人の現世身うつせみ 砕け散ってしまうまで


 選者の人によれば、僕の作品は感覚より理屈が先行していて共感しにくいらしい。
 たしかに感動をそのまま置いておけずに、分析して理解しようとする節がある。それは今でも変わらないようだ。
 感動を感動のまま投げ出すと、僕自身が共感できないものになってしまいそうだからなんですけどね。


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