第七章

深紅の炎はまたたくまに館を包み込こんだ。
「私も知っておりました・・・・」
ウロフによって外へ連れ出された侍女のヘルガは、地面に両手をつきがっくりとうなだれた。
「おいたわしい奥様をお見捨てすることは、私にはとても・・・・ですから、奥様が秘密を
おうち明けになられた時、どこまでもお供しようと決めたのでございます。
旅のお方、私もあの炎の中にお見捨てくださればよかったものを・・・・・」
「なにもお前まで死ぬことはない。ワランまで連れていってやろう。館がすっかり焼け落ちるのを
見届けたら、フェイシア夫人とミヌーシャと、そしてルカシュの弔いだ。」
「ルカシュにはすまぬことをした。」
「なぜだ?アシュラン」
「ルカシュがこうなったのは、私と道連れになったからかも知れぬ。私は凶事の前触れだからな。」
「そうか・・・・わかったぞ。」
「なにがだ?」
「人喰い花の香りに、お前さんだけ幻惑されず正気でいられた理由がだ。あの妖花は男を餌食に
する。お前は半陰半陽のセラフィムだ、男でもあるが、女でもある。」
「男でもなければ、女でもない。」
アシュランはにやりと笑ってみせた。
「さしもの妖花アルラウネもの毒香もお前には効かなかったと言うわけだ。おかげで命拾いしたよ、
アシュラン王子。」
「もう王子ではないと言ったろう。」
舞い上がる火の粉に手をかざし、アシュランは美しくも冷たい目をそばめた。

まもなく、館は粉みじんになって炎の中に崩れ落ちるだろう。
悲しいほど狂気に満ちた母の心と、妖花に食らわれたあまたの人間たちの慟哭を呑み込んで。

「さぁ、行くか。」
「私を追い払ってもいいぞ、ウロフ・ルツ。この次はそなたかも知れぬ。」
「ばか言え。お前のような面白い者を放って行けるか。」
ウロフ・ルツはアシュランに向かって片目をつぶってみせた。

                                                               

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