鱗粉
晩秋の夕暮れどき
薄汚れた街灯の下に
大きな蛾が死んでいた
蛾はかさかさに乾き
ほとんど羽だけ残して朽ちていた
鱗粉が風に舞い
ちらちらと
雲母のように煌めく

熱帯夜
灯のまわりをばさばさと飛ぶ蛾は
その中に毒を潜ませていた
でもそれは
無数の微少な鱗粉が
それらしく形づくっていたにすぎない
いまは道ばたの屑となって
かろうじて歩道にへばりついているだけ

すべての鱗粉を
風に飛ばしてしまった羽は
もう毒を失くしていた