眠り犬

誰もいない家の玄関先に
いつも鎖につながれていた犬
来る日も来る日も ただ眠っていた

目を見開いて空を見上げてみても
空はあまりに遠すぎる

せめて隣の庭に咲く あの白い花が
どんな匂いなのか嗅いでみたくても
鎖が短すぎて届かない

だから眠るしかない

どこかで自分の名前を呼んでいる気がするけれど
それがほんとに自分の名前だったのかどうか
それさえも 忘れてしまった

どこかで「この犬め!」と罵る声がしても
自分が犬だったのかどうかも よくわからない
だから眠るしかない

眠っていれば 痛まないから
毎日  毎日
眠るしかない