妖女の眠り  ホウノキに寄せて
ゆらりと目を覚ます ホウノキ
白い花びらは無垢を装い
甘い香りは人を欺く

昼でも暗い森の奥
底なしの淵を見下ろして
花は目を細めて微笑んだ

深夜 眠りながら吸い取った木々の精気を
婉然と 振りまくのだ
蜜の匂いとともに
密やかに獲物を待ち
妖しげに
花は森の命を
呑み込んでしまうつもりらしい

そして臙脂の夕暮れが
あたりを包み始めると
純白の妖女は
儀式のように眠りにつく